「テセウスの船って、結局どういう意味なの?」
漫画「テセウスの船」を読んだ人の中には、そう思った人も多いのではないでしょうか。
物語自体は、過去にタイムスリップして父親の無実を証明しようとするサスペンスですが、なぜ作品のタイトルが「テセウスの船」なのでしょうか?
実は、このタイトルには物語の結末にも関係する、かなり深い意味があります。
そして作品を最後まで読むと、「果たして最後に残った世界は、本当に最初の世界と同じなのか?」という疑問が浮かび上がってきます。
この記事では「テセウスの船」という言葉の意味を簡単に説明したうえで、漫画「テセウスの船」との関係を考察していきます。
「テセウスの船」とは?
| 初版発行日 | 2017年9月22日発売 |
| 掲載雑誌 | モーニング |
| 出版社 | 講談社 |
| 作者 | 東元俊哉 |
| 巻数 | 全10巻(コミックス) |
| ジャンル | サスペンス |
| Wikipedia | 「テセウスの船」のWikipedia |
2017年にモーニングに掲載された後、2020年ではTBS系列でドラマ化。竹内涼真さんが主演を務めて大ヒットしました。
漫画版とドラマ版は犯人が異なり、それぞれ楽しめる作品になっています。
漫画版のあらすじは以下で解説しています。
「テセウスの船」の意味
テセウスの船は《パラドックスのひとつ》として使われている言葉です。
由来は以下の通り。
その昔、クレタ島から帰還した【テセウスの船】を人々は英雄と称えた。
テセウスの船を後世に残そうとした市民は、時と共に古くなって朽ちた部品を新しい部品に交換した。時間が経過すると当初の部品は全て無くなっていた。
ここで1つの疑問が生じる。
現在あるテセウスの船はクレタ島から帰還したテセウスの船と同じと言えるのか?
これは海外の話なのでピンとこない人も多いかもしれません。
日本にも分かりやすい物語があるので【テセウスの船】の事例を挙げていきます。
京都市内にある金閣寺。室町時代に足利義満が建造を命じた、日本を代表する寺社仏閣で、知らない人はいないでしょう。
ただ、この金閣寺は室町時代の材料はほとんど残っていません。
なぜかというと1950年の放火されたからです。この放火によって建物は全焼し、建物本体をはじめ国宝だった足利義満の木像や数々の古文書・仏像も焼失してしまいました。
今の金閣寺は1955年に再建時されたもので、室町時代の建築様式を忠実に再現した建物となっているのです。
私達が金閣寺を観光した時に「おー、これが金閣寺かぁ!」と感動しながら観るのですが、果たして現在の金閣寺は本物の金閣寺と言えるのでしょうか。
意地悪な人であれば、「これって昭和に建て直されたものだから、本物の金閣寺じゃないよ」と言うでしょう。
でも、ある人は「金閣寺の設計を正確に再現したんだから、これは金閣寺として認めるべきだ」と言うでしょう。
この定義のズレが【テセウスの船】というパラドックスになります。
漫画「テセウスの船」におけるテセウス論
ここまで読んで、「テセウスの船がどういう意味なのか」は理解していただけたと思います。
では、なぜこの漫画のタイトルは「テセウスの船」なのでしょうか。
結論から言えば、この作品は「テセウスの船」のパラドックスを、船ではなく【人間】に置き換えた物語だからです。
主人公の田村心は、父親が起こした殺人事件の真相を追う中で、事件が起こる前の過去へタイムスリップします。
そして、未来を変えるために過去へ介入していく。当然、過去を変えれば未来も変わります。
本来なら起こるはずだった出来事が起こらなくなり、本来なら生きているはずの人間が死んだり、逆に死ぬはずだった人間が生き残ったりする。
つまり、最初に存在していた「未来」とは、まったく違う未来が作られていくのです。
ここで「テセウスの船」の考え方が関係してきます。
テセウスの船では「部品をすべて交換してしまった船は、元の船と同じ船なのか?」という疑問が生まれました。
では、これを物語に当てはめてみましょう。
過去が変わり、人生も環境も人間関係も変わってしまった人は、元の世界に存在していたその人と同じ人間なのか?
これが、漫画「テセウスの船」における大きなテーマです。
テセウスの船に出てきた世界線は3種類。
- 佐野文吾が無差別殺人事件の犯人。和子・慎吾・鈴・心は全員生きており、心は由紀と結婚して未来という娘が生まれている。
- 佐野文吾が無差別殺人事件の犯人。和子・慎吾は一家心中により死亡。鈴は整形・改名して【村田藍】として生存。心は由紀と面識はなく、由紀は雑誌記者として働いている。
- 加藤みきお・木村みきお(加藤信也)が無差別殺人事件の犯人。和子・慎吾・鈴・心は全員生きており、全員が平和に暮らしている。由紀と関係は描かれていないが、同僚の教師である可能性が高そう。過去から来た心は死亡。
言わずもがな3番目の世界線が最もハッピーな結末になっています。
では、1番目と2番目の世界線で生きていた人達はどうなったのでしょうか?
世界が消滅して3番目に集約されたのか、別個の世界線として登場人物は生きているのか。この点については描かれていません。
つまり物語の最後がハッピーエンドだからと言って、全てがハッピーになったのかと言われると分からず、まさに【テセウスの船】状態となっています。
漫画「テセウスの船」では、このパラドックスを「船」ではなく『人間』や『家族』、そして『人生』に置き換えて描いているのです。
だからこそ、タイトルに「テセウスの船」という言葉が使われている。
これは単純に《タイムスリップものの漫画》という意味ではありません。
過去が変われば、そこから生まれる未来も変わる。では、その未来に存在する人間は、元の未来に存在していた人間と同じなのか?
作品のタイトルには、そんな哲学的な問いが込められていると考えられますね。
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『テセウスの船』は、単なるタイムスリップミステリーではありません。
物語を最後まで読み進めることで、「テセウスの船」というタイトルが意味するものや、作品を通して描かれている「人間は何によって同じ人間だと言えるのか」というテーマが、より深く見えてきます。
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